長編｢支那扇の女｣の原形作品の原形作品
「ペルシャ猫を抱く女」（横溝正史）
（「横溝正史ミステリ
短篇コレクション③」）柏書房
「ペルシャ猫を抱く女」（横溝正史）
（「ペルシャ猫を抱く女」）角川文庫
「肖像画」（横溝正史）
（「横溝正史探偵小説
コレクション③」）出版芸術社
五井は想いを寄せていた早苗が、
了仙から何やら脅されている
らしい様子を目撃する。
その後、五井は了然和尚から、
了仙が見つけだしたという
肖像画｢ペルシャ猫を抱く女｣を
見せられる。
その画のモデルは
早苗にそっくりだった…。
以前取り上げた横溝正史の
｢支那扇の女｣の
原形作品(の原形作品)が、
この2つの作品なのです。
｢ペルシャ猫を抱く女｣は
1946年に雑誌掲載されました。
ところがこの作品の登場人物名が、
当時発表した｢獄門島｣と
重なるものが多かったため、
1952年に｢肖像画｣として再発表
(変更はほぼ人物名のみ)されたのです。
そして｢支那扇の女｣として
翌年1957年に発表され、
さらには1960年に
長編化されたというものです。
したがって｢支那扇の女｣は
三度の改稿を経て完成された
長編小説ということになります。
【主要登場人物】（ ）は｢肖像画｣
五井(秋元)
…事件を｢私｣に伝達する。
｢私｣
…語り手。犯罪事件を蒐集している。
本位田早苗(由紀)
…五井(秋元)が想いを寄せる女性。
了仙(了雲)
…竜泉寺の若い僧。
早苗(由紀)を脅す。
了然(了海)
…竜泉寺住職。
八木克子
…故人。
｢ペルシャ猫を抱く女｣のモデル。
姑･小姑毒殺未遂で逮捕され、獄死。
さて、
1957年版｢支那扇の女｣と比べたとき、
両作品はさらに小ぶりです。
そこには｢支那扇の女｣のような
殺人事件が起きていないのです。
わずかに殺人未遂事件らしきものが
あるだけで、
それも関係者が秘匿しているため、
｢事件｣にすらなっていないのです。
五井が肖像画のトリックを
見破ることによって、
殺人者の末裔であるという
早苗の心の苦痛を取り除くという、
シンプルな筋書きになっているのです。
だとすると、横溝の創作の起点は、
この(日本の爵位制に関わる)肖像画の
トリックということになります。
横溝は奇抜なトリックを
思いつくのが先であり、
それに筋書きを加えているのだと
考えられます。
単なる｢悪戯｣で終わっている
｢ペルシャ猫を抱く女｣｢肖像画｣に、
現代で起きる殺人事件を絡めて
短篇版｢支那扇の女｣が書かれ、
さらに｢因縁｣を深め、
殺人事件をより巧妙化し、
長編版｢支那扇の女｣が
編まれていったのです。
ところで旧角川文庫版には
｢ペルシャ猫を抱く女｣が収録され、
｢肖像画｣は採用されていません。
この二作品が、登場人物以外は
ほぼ同じであることを考えたとき、
｢肖像画｣の方を
載せるべきではなかったのか？
角川文庫｢ペルシャ猫を抱く女｣の
巻末解説には、
｢ペルシャ猫｣｢支那扇･短篇｣
｢支那扇･長編｣の三作品の
繋がりについて書かれてあるのですが、
｢肖像画｣については
まったく言及されていないのは
なぜなのか？
疑問はつきません。
ここはやはり金田一耕助に
謎解きをお願いするべきでしょうか。
※柏書房
「横溝正史ミステリ短篇コレクション
③刺青された男」収録作品一覧
神楽太夫
靨
刺青された男
明治の殺人
蠟の首
かめれおん
探偵小説
花粉
アトリエの殺人
女写真師
ペルシャ猫を抱く女
消すな蠟燭
詰将棋
双生児は踊る
薔薇より薊へ
百面相芸人
泣虫小僧
建築家の死
生ける人形
※出版芸術社
「横溝正史探偵小説コレクション
③聖女の首」収録作品一覧
金襴護符
海の一族
ナミ子さん一家
剣の系図
竹槍
聖女の首
車井戸は何故軋る
悪霊
人面瘡
肖像画
黄金の花びら
（2022.3.18）
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